『ニューロマンサー(英題: Neuromancer)』ウィリアム ギブスン著,黒丸 尚訳,ハヤカワ文庫SF.#登場人物 #用語解説 #読了するためのポイント

Photo : SMATU.net

まずは『ニューロマンサー(英題: Neuromancer)』を読むに至った経緯から.

少し前の話になるが,NewsPicksで公開されている『【緊急企画】落合陽一のアトリエから』を視聴していて,「おすすめの小説は」という視聴者からの質問に「ウィリアム・ギブスンのニューロマンサーが凄い好きです」と落合さんが答えていた.

ウィリアム・ギブスンのニューロマンサーが凄い好き

落合さんのコメントより

未読のSF小説だったし,書かれたのも1980年代とそれなりに古いし(僕は古典のSF小説も好きだ),落合さんが面白いと言うなら「ぜひその世界観に触れてみたい」ということで,動画を観つつAmazonで『ニューロマンサー』を注文した.

『ニューロマンサー』がどんなジャンルのSF小説かというと,サイバーパンクSF(この作品がサイバーパンクSFの先駆けと言われている)ということになる.世界観や,作品の中で登場する用語を理解するのには少々苦労するが,勢いに乗ることができれば,一気に読み進めることができる.

サイバーパンク【cyberpunk】
SFの一種.コンピュータが支配する未来社会を描くもの.引用: 広辞苑

【緊急企画】落合陽一のアトリエから ※フルバージョン(NewsPicksへジャンプします)

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『ニューロマンサー』を最後まで読み,話を理解するためのコツ.

ニューロマンサーを読了した先人たちの言葉を借りると「ニューロマンサーは,意味が分からなくても,とにかく勢いで一度読み切ってしまうことが大事」らしい.

『ニューロマンサー』では,一般的な小説であれば解説が入るレベルの難解な専門用語や作品オリジナルの概念が,一切説明されず当然の事のように使われてる(もちろん最後まで説明は無いし,巻末の注釈も存在しない).故に,読んでいると至るところで「何が起こったんだ?」「今のはどういう意味なのか?」と,脳内が?(クエスチョン)だらけになってしまう.しかし『ニューロマンサー』の初見は,それで良い.

まずは,最後まで読め

『ニューロマンサー』読了した諸先輩方の教え

ネットで調べてみると解るが,ニューロマンサーをはじめて読んだ人の多くが,ストーリーの大筋すら把握できず,途中で挫折して読むのを止めてしまっている.しかし,それでは勿体ない.僕は何とか読み終えることができたので,ニューロマンサーの良さを理解することができた.『ニューロマンサー』は2周目の読書から本番であり,何度も読むからこそ,作品の持つ奥深い世界観に引き込まれていくのだと思う.

なので,ニューロマンサーを手に取り,読み始めているのであれば,まずは文字を追いかけるだけでもいいので,意味不明に感じようと最後まで読み切ってみてほしい.最後まで読めそうになければ,「ニューロマンサー あらすじ」でググったり,「ニューロマンサーの日本語wiki」で情報を補完しながら読了すればよい.

ニューロマンサー読了の秘訣
  • まずは最後まで読む
    • 2周目からが本番と考えて読む
  • ネタバレを気にしない人なら,予習してから読む
  • 意味が解らない用語は,とにかく調べる(何度も調べて理解する)
  • 行間が空いたら「場面が変わったかも?」と注意する
  • 「…」は「?(疑問符)」に脳内変換する
  • Wikipediaを開きながら読む

しつこいようだけれど,ネット情報などを駆使して,なんとしてでも読了すること.

あえて読み進めるコツを説明するとすれば,行間が空いていれば高確率で場面が変わっていると解釈すること.『ニューロマンサー』は,たった1行の行間で全く異なる場面になっていることが何度も何度もある.主人公が「マトリックス」と呼ばれる電脳空間にいたかと思えば,行間が空いたあと,一言の説明もなく現実世界に戻ってきていたりする.そして当然のように物語が進んでいく.

ニューロマンサーでは,「行間 = シーンの切り替わり」と覚えておこう.

『ニューロマンサー』の概要/シリーズ3部作/補完におすすめの作品紹介.

『ニューロマンサー』は,『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライヴ』と続くウィリアム ギブスンの電脳空間(サイバースペース)3部作の1作目.前述のとおり,読みづらいと感じるかもしれないが,スピーディーな展開やサスペンスめいたストーリー構成なので,ひとたび世界観に引き込まれるとページを捲る手が止まらなくなる.

多少のネタバレが問題なければ,『ニューロマンサー』は日本語のWikipediaが充実しているので,ウィキを開きながら読むと理解しやすい.登場人物やガジェット,用語なども丁寧に解説されており,「ニューロマンサーを愛する人が文章を綴ってくれたんだろうなぁ」と思わせる充実したページになっている.

あらすじ
サイバネティクス技術と超巨大電脳ネットワークが地球を覆いつくし、財閥(ザイバツ)と呼ばれる巨大企業、そして「ヤクザ」が経済を牛耳る近未来。かつては、「マトリックス」と呼ばれる電脳空間(サイバースペース)に意識ごと没入(ジャック・イン)して企業情報を盗み出すコンピューター・カウボーイであり、伝説のハッカー「ディクシー・フラットライン」の弟子であったケイスは、依頼主との契約違反の制裁として、脳神経を焼かれてジャック・イン能力を失い、電脳都市千葉市(チバ・シティ)でドラッグ浸りのチンピラ暮らしを送っていた.

引用: Wikipedia『ニューロマンサー』

ちなみに,書籍の背表紙で紹介されているあらすじは以下のとおり,

ハイテクと汚濁の都,千葉シティの空の下,コンピュータ・ネットワークの織りなす電脳空間を飛翔できた頃に思いを馳せ,ケイスは空虚な日々を送っていた.今のケイスはコンピュータ・カウボーイ能力を奪われた飢えた狼.だがその能力再生を代償に,ヤバイ仕事の話が舞い込んできた.依頼を受けたケイスは,電脳未来の暗黒面へと引き込まれていくが…

引用: 早川書房『ニューロマンサー』

また,同じくハヤカワSF文庫から出版されている『クローム襲撃 』は,ウィリアム ギブスンの短編小説集で,この中に収録されている「記憶屋ジョニィ」では『ニューロマンサー』のヒロイン的存在であるモリイが登場したり,「クローンの逆襲」では主人公ケイスの師匠であるボビイ クワインが出てきたりもする.

短編小説集『クローム襲撃 』は,『ニューロマンサー』の入門書的な位置づけと考えることもできるので,『ニューロマンサー』を読み始めて挫折しそうになった人や,逆に『ニューロマンサー』が面白いと感じた人は手にとってみるとよいだろう.

『ニューロマンサー』の入門書としてもおすすめの短編集『クローム襲撃』.
「記憶屋ジョニー」ではモリイ,「クローム襲撃」ではボビイが登場する.
『ニューロマンサー』に関連する作品
  • 『カウント・ゼロ』 > 本作の続編(2作目)
  • 『モナリザ・オーヴァドライヴ』 > 同じく続編(完結)
  • 『クローム襲撃』 > 短編集(モリィやケイスが登場する作品が収録)

『ニューロマンサー』は,サイエンスフィクション愛好家であれば,間違いなく買って後悔の無い作品だと思う.「超巨大電脳ネットワーク」「特注電脳空間デッキに没入(ジャック イン)」…といったフレーズを読んでいると,脳がアドレナリンで満たされワクワクしてくる人であれば尚更だろう.

以下は,『ニューロマンサー』に初見読書の際に,自分用としてまとめた登場人物メモや用語解説.Wikipediaほど充実してはいないが,よろしければ読書のお供や補完のための解説としてどうぞ.(今後も読み返したら内容を充実させていこうと考えている)

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登場人物

ケイス

本作品の主人公で,元コンピュータ カウボーイ(電脳空間を自在に行き来する能力,ハッカーみたいなもの).

ある過ちを犯し,コンピュータ カウボーイとしての能力を奪われてしまう.

モリイ

ケイスのパートナー.本作のヒロイン的存在.

アーミテジ

仕掛け(ラン)のチームリーダー,元軍人.本名はウィリス コート.

ピーター リヴィエラ

自分が思い描いたものを,人に見せることができる能力を持つ.

ディクシー フラットライン

ケイスの師匠だったマコイ ポーリーの脳神経をデータ化したROM構造物.

冬寂(ウィンターミュート)

仕掛け(ラン)の黒幕.テスィエ アシュプール株式会社の所有するAI(人工知能).

リンダ・リー

ケイスが千葉シティにいたときの彼女.

レイディ・3ジェイン・マリイ=フランス・テスィエ=アシュプール

ヴィラ迷光ストレイライト内で起きていたテスィエ・アシュプール。冬寂ウィンターミュートの欲する暗号を知っている

ヒデオ

3ジェインの家臣で忍者暗殺者ニンジャアサシン

ニューロマンサー

仕掛け(ラン)の本当のターゲット.冬寂(ウインターミュート)の別プログラム.

用語解説と世界観

スプロール

無秩序に拡散していく都市様式のこと.『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライヴ』と続くウィリアム ギブスンの電脳空間(サイバースペース)3部作の舞台でもある.

短編小説『クローム襲撃』でも,「スプロール」は登場する.

しかし,いまのおれが,ときどき眠れない夜に見る彼女は,このスプロール化した市街とスモッグのはるか彼方に立っている.まるでおれの目の裏側にくっついたホログラムだ.

『クローム襲撃』327ページより引用

カウボーイ

電脳空間のハッカーのこと.

ボビイはカウボーイだ.伸びひろがった人類の神経系を物色して,すしづめのマトリックスの中からデータや預金をかすめとる金庫破りだ.夜盗だ.

『クローム襲撃』320ぺーじより引用

氷(アイス/ICE)

侵入対抗電子機器(Intrusion Counter-measures Electronics)の略称で「ICE(アイス)」と読む.攻性の防壁プログラムのこと.
アイスは,ケイスの師匠ボビイの得意技でもある.※『クローム襲撃』の320ページ参照.

擬験(シムスティム)

仮想現実による疑似体験のこと.

「シムスティムデッキ」を介して他人の感覚を共有することができる.感覚をリアルタイムで体験のする以外に,編集された記録へアクセスすることもできる.

擬態ポリカーボン

光学迷彩

テスィエ アシュプール株式会社

一族で運営されている会社.ヴィラ迷光ストレイライトに本部を持ち,冬寂(ウィンターミュート)を所有している

自由世界フリーサイド

L5にあるコロニー群のうちの一つ

ザイオン

L5にあるコロニー群のうちの集合体

ヴィラ迷光ストレイライト

自由世界内にあり、T=Aの居住領域

故買(こばい)

作中で「故買屋」という言葉が登場する.辞書などにも載っているが,あまり聞き慣れない言葉だ.故買(こばい)は,盗んだ品物であることを知っていて,それを買うことを指している.なので,「故買屋=盗品をあつかう店」と解釈して問題ないと思う.

こばい【故買】

盗んだ品物であることを知っていて,それを買うこと.窩主買(けいずかい).

広辞苑より引用

【編集後記】こんな人は『ニューロマンサー』の世界観が好きだろうなぁ.

ごくごく私的な見解.

最近,劇場版の『EVANGELION』や,PS4(PS5)用のゲーム『デス・ストランディング』を楽しんでいる.これらの作品の世界観が好きな人は,何となくだがニューロマンサーを気に入るのではないかと感じている.

  • 正確な意味は解らないが,何を言っているのかはかろうじて解る,絶妙なニュアンスを持つ専門用語
  • 視聴者や初見の人のことを,全く考えてないのではないか(良い意味で)と感じてしまうような,お構いなしのストーリー展開

そんな作品が好きな人であれば,『ニューロマンサー』を楽しむことができるのでは無いだろうか.何度かニューロマンサーを読んでいると,そんな風に思えてくるのである.

〈了〉

SourceNotes

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