『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL IIs』とDf,ファーストインプレッション【前編】#コシナ #COSINA

ニコンのDfを購入してから約1ヶ月.

『AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G』のレンズが非常に優秀で満足してはいるものの,「せっかくDfを買ったし,マニュアルレンズでお気に入りの1本が欲しいなぁ」とかれこれ3週間ほど悩んだ結果,『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL IIs』購入した.
使って無いレンズを下取りに出せばタダみたいなものだし・・・と言い訳をしつつ,夜な夜なマップカメラの下取り交換で手持ちのレンズとお別れを決意し,決済も無事に完了.

フィルターサイズはφ52mmなので,手持ちのニコン金属フードを取り付ければよいのだが,ついついコシナ製純正フードもセットで購入してしまった.
マップポイントがたまっているから,タダみたいなものだし・・・と言い訳をしつつカートに追加してしまっていた.
深夜は脳みそが疲れているせいか,誘惑に屈しやすくなっている気がする.

そんな風にして購入したのが『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL IIs』.
これが,11月1日 深夜の話.

VoigtlanderのFマウントレンズ『NOKTON 55mm F1.2 SL II S』

日付は変わり11月4日.

3日に到着したが諸事情のため受け取ることができず,実際にレンズを手に入れたのは11月4日(ヤマト運輸さんいつもありがとう),さっそく散歩しつつ試写することに.

2023年11月上旬の九州は「もう11月だよね」と季節を疑うような夏日+快晴だったので,「よいベンチマークになりそうだ」と考え,f/4.0〜f/5.6あたりを意識的に使っての撮影テストを実施.

まずは,F4,F5.6,F8で撮影した写真を数枚添付.

仕様と光学性能

このレンズは『NOKTON 55mm F1.2』の名称にあるとおり,開放F1.2の明るいレンズで,最小絞りはF16,焦点距離は55mm(画角:43°)といった特長をもつ.
55mm の焦点距離は,50mmを普段使っている自分にとっては違和感なく自然にスナップできる画角だった.
50mmレンズを日常的に利用している人にとっては,問題なく使え画角なので安心して購入してよいと思う.

コシナ公式サイトで解説されているとおり,F4からは画面全体で高いシャープネスが(輪郭がくっきりと)表現される.開放では大口径レンズならではの大きなボケを愉しめるため,絞りを変えることで異なる表現を得ることができる.

大口径レンズならではの表現力絞り開放では大きなボケによるモチーフの強調効果が得られ、F4近傍では画面全体で極めて高いシャープネスを発揮することから、絞りによる写真表現の使い分けを存分に楽しめます。

引用:コシナ公式サイト

以下の4枚の写真(「肥後のつりてまり」の様子)は,すべて日中にF2で撮影している(シャッタースピードも同じ).F1.2だと露出オーバーだったのでF2で撮影しているが,開放付近の描写の良い参考になると思う.

『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL IIs』は,開放F1.2〜F1.4あたりとは異なり,F2に絞ると中心から中間部までの解像感が向上し、周辺部(特に四隅を除いて)の描写が良化する傾向にある.

被写体との距離や背景といった撮影環境にも左右されるが,開放〜F1.4とF2〜F2.8あたりではボケのグルグル感やフレアの出方,中央から中間部分にかけての写りに違いが出てくる.

開放の写りは,ファーストインプレッションの後編で作例紹介する予定だが,日中の描写比較を行うにはNDフィルターが必要だと感じた.
このレンズは,日中の撮影においても開放付近を使ってみたいので,後日NDフィルターを買いたそうと考えている.

以下の2枚は,F4まで絞って撮影した作例(フリンジ確認用).

先ほど「F4からは画面全体で高いシャープネスが(輪郭がくっきりと)表現される.」と書いたが,いくつかの写真では,F4まで絞っても周辺でフリンジが発生しているのが確認できた(以下の2枚の写真では,どちらも右上部分にフリンジが発生している).

F8,F11まで絞ればフリンジもなくなる可能性が高いので,後日もう何段か絞ってスナップしてみようと考えている.(F8くらまで絞った作例は,この記事の後編で紹介予定です)

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NIKKORの大口径レンズ,歴史的背景と物語

このレンズのコンセプトは「35mm判一眼レフ、創成期へのオマージュ。」.
参照:コシナ公式サイト

そのコンセプトどおり,1960年代のに多く登場したF1.2クラスの大口径標準レンズへのオマージュとして設計されている.
手元にある『ニッコール千夜一夜 Ⅱ』第四十九夜で登場する『NIKKOR-S Auto 55mm F1.2』と主な仕様が似ているので,このレンズへの敬意を強く感じる.

『ニッコール千夜一夜 Ⅱ』第四十九夜によると,『NIKKOR-S Auto 55mm F1.2』には絞りによって以下のような描写の特長が得られることが分かる.
今回の試写で撮ったF4とF5.6の写真と,記載されているF2.8~4/F5.6~8の解説内容を比較しても,特長が一致している.
開放付近とF8・F11の作例はもっと必要になるが,『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL IIs』は『NIKKOR-S Auto 55mm F1.2』の描写解説を参照しつつ,レンズ特性を把握していこうと思う.

F1.2開放
中心は割合に解像感はあるが、ベールのようなフレアーが取り巻いている。中心から画面周辺に向かうにつれて、フレアー感が増すが、ピークは画面6割ぐらいの位置であり、その後はビネッティングの影響で、フレアーも若干減少する。全体的に線の細い描写をするが、四隅は若干解像力が低い。しかし、色にじみが少なく、発色はすっきりしていて好感が持てる。

F1.4~2
F1.4に絞り込むことによって、解像感はあまり変化がないものの、ベールのように降り巻いたフレアーが減少し、ビネッティングも改善する。さらにF2に絞ると、中心から中間部まで、フレアーも消え解像感が向上し、周辺部、特に四隅を除いて良化する。四隅の解像力、フレアーの改善はわずかである。

F2.8~4
フレアーもほとんど消えて、解像感がグッと向上。ごく四隅を除いて、十分満足できるシャープネスになる。F2.8ではやわらかさの中に上質の解像感が同居するイメージ。F4では高精細を達成できたイメージ。

F5.6~8
画面全体が均一な描写で、高いシャープネスを達成。全F値の中で最高の画質と思われる。

F11~16
画面全体が均一な描写で、高いシャープネスを達成。F16まで絞ると、回折の影響が若干現れ、解像感を若干損ねる。

シャープネスを期待するなら、F5.6~F11の絞りで使用すると良好な結果を得られるでしょう。また、やわらかい描写、独特の描写を楽しむのなら、F1.2~F2を試していただきたい。物撮りポートレートに独特の味わいを与えてくれると思います。また、ある程度シャープネスを求めつつ、やわらかい描写を望むのであれば、F2.8で写してみるのも良いかもしれません。今回の実写テストでは、このレンズが、「各F値による描写が、刻一刻と変化する玄人好みのレンズ」であることが分かりました。

引用:ニッコール千夜一夜 第四十九夜 Nikkor-S Auto 55mm F1.2

引き続き本記事では,F4〜F5.6くらいで撮影した作例を紹介していく.

上記の3枚はすべてF4で撮影した写真,ISOとシャッタースピード,ホワイトバランスなどのカメラ設定も同じ.開放付近の描写とは性質が異なり,解像感がグッと向上した印象を受ける.

F4まで絞れば,四隅の解像感もあまり気にはならない十分満足できるシャープネスを得ることができる.ウェブやSNSで使うのであれば全く問題ないだろう.

柔らかい表現やボケがほしいときはF2〜2.8,かっちり撮りたいときはF4〜5.6と使い分けをしつつ,今後F8から11あたりの描写も探っていこうと思う.

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外観と操作性

iPhoneで撮影

『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL IIs』の光学系は6群7枚.現代では当たり前になった非球面レンズを使わず,伝統的な光学設計が採用されている.
前述したとおり,絞り開放では大きなボケによる強調効果が得られ,絞り込むと画面全体で高いシャープネスを発揮するため,絞りによる写真表現の使い分けが可能.

フォーカスリング,絞りリングを含めて総て金属製で,SL II sシリーズで最も明るいF1.2であることを強調する意味から,焦点深度指標リングもブラック仕上げとした特別なデザインが施してある.
マウントはCPU内蔵のニコンAi-S互換で,薄型接点部品を新規に設計されているらしい.

レンズがブラック仕上げということで,愛用中のDfブラックとの相性が素晴らしい.これも『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL IIs』の満足ポイント.
マウントアダプターを使ってZfと使うのも素敵だと思うが,トータルバランスとしては,個人的にはDfに軍配を上げておきたい.

外観と併せて触れておきたいのは,フォーカスリングのトルク感.

トルク感とは,フォーカスリングを回すときに感じる抵抗感や滑らかさのことで,マニュアルフォーカスの正確さや,操作の快適さに直結する重要な要素.
年代物のレンズだと,グリスが劣化して擦れるような音がしたり,逆にピント調整が困難なほどトルク感が重たい個体が市場で取引されていたりする.

『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL IIs』は2023年以降に製造された最新のレンズなので,フォーカスリングのトルク感は良好.
適度なトルク感を生む高品質グリスが使われているため,非常に滑らかで快適なピント調整を行うことができる.
f/1.2のようにピント調整がシビアな場面でも,微妙なピント調整が可能な仕上がりになっている.

確実なピント操作が可能なマニュアルフォーカス
高い精度で加工・調整された総金属製ヘリコイドユニットと、適度なトルクを生み出す高品質グリースの採用により、滑らかな操作感覚のフォーカシングを実現。微妙なピント調整を可能にしています。

引用:コシナ公式サイト

<了> 後編に続く.

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