『読む時間』 アンドレ ケルテス著 創元社,『陰翳礼讃』文: 谷崎潤一郎/写真: 大川裕弘 #読書備忘録

Photo : SMATU.net

外出する機会も徐々に増えつつある,2021年の師走.「昔は週5で通ってたなぁ」と懐かしく思いつつ,特に欲しい本はなかったけれどジュンク堂書店へ立ち寄った.お気に入りの棚がある3階に向かい写真集のコーナーを眺めていると,アンドレ ケルテスの『読む時間』と谷崎潤一郎の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』が目に止まった.

ジュンク堂書店.時間に余裕があると,ついつい目的もなく通っていしまう.

『読む時間』は立ち読み可能だったが,『陰翳礼讃』は,なぜかシュリンク加工で中身を確認することができない.仕方ない,と諦めて帯を読んで価格をチェックする.

日本の美学の底には,「暗がり」と「翳り」がある.
谷崎の名作がビジュアルブックとしてよみがえる.デザイナー,建築家,ミュージシャン,画家,編集者,読書家…美大芸大系の学生,必読の書

『陰翳礼讃』の帯より

帯にはこう書かれている.僕はどれにも当てはまらないのだが,どうも直感が「買ったほうがいいぞ」と背中を押しているような気がしたので,2冊とも抱えて閉店間際のレジに向かった.

帰りのバスまで少し時間があったので,スタバでコーヒーをおかわりしつつ最初に手にとった『読む時間』から目を通しはじめる.巻頭には谷崎潤一郎の「読むこと」が添えられている.読む人が読んだらすぐに分かるだろう,↓は谷川俊太郎「読むこと」のオマージュだ.谷川俊太郎の詩集は何冊か持っているのだが,この詩は初めて読んだ.

黒い文字たちが白いページの上に綺麗にならんでいる
静か
もちろん音はしない僕の眼は文字に沿って動いていく
僕の指がページをめくる
空調から出ている風が頬を撫でていることには気づかない
僕は本を読んでいる
長いこと椅子に座っていたのでお尻はかすかに汗ばんでいるようだ

仕事の帰り道にあてもなく好きな書店に立ち寄った
そのときその本と眼があったような錯覚がした
なぜかそうとしか思えなかった
どんな本かも分からずに手にとり
カバーを見て扉を開けて著者の写真を確認する
それだけでレジに向かう
自分の勘を信じて
きっと素敵な本だろう

『読む時間』の谷川俊太郎の巻頭詩の一部.

本家の谷崎潤一郎の詩は,ぜひ彼の詩集やここで紹介しているケルテスの『読む時間』から読んでみてほしい.素晴らしい詩だ.この詩を読んでいて『陰翳礼讃』を買ったときの情景が頭をよぎった.だからこんなオマージュを思わず手元にあるiPhoneから書いてしまった.駄文ゆえ申し訳ない気持ちもあるのだが,優れた文学作品は,人に文章を書かせようとする力があるのだと,はじめて体験したような気がする.

『陰翳礼讃』はまだパラパラと一通り目を通しただけだが,よい買い物だったことはすぐに解った.『陰翳礼讃』は新潮文庫や角川ソフィアから発行されているが,今回購入したのは,写真家の大川裕弘の作品が添えられた新版.結果,どちらも買って正解だった.

〈了〉

今回購入したのは,写真家の大川裕弘の作品が添えられた新版.結果,どちらも買って正解だった.

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