写真をはじめてからというもの,メカニックよりは写真の歴史に楽しさを感じるようになり,写真集や写真史の本を買い漁っている.そうしていると,写真のルーツである美術にも少しづつ興味が湧くようになった.
カメラ沼,レンズ沼とよく言うけれど,「写真沼」のようなものがこの世界には存在するのでは無いかと最近よく考えている.
というのも,そもそも写真集や写真史の書籍は値段が高く,売れなかった写真集はすぐに廃版になってしまう.そうすると,以前は数千円で買えていた本が,いつの間には1万円を超えるプレミアム価格になっていたりする.最近は,定価で販売されているほしい写真集を見つけると,悩みつつも「買っておこう」となることが増えてしまった.
当然これが積み重なると,「レンズが1本買えたな」とそれなりの金額になっている.このような現象を「写真沼」と定義している.写真沼には,写真作品を購入することなども含まれており,人気の写真家の作品を買おうとするとこれまたレンズ同等,またはそれ以上の出費になる.
アート作品にお金を払うことには肯定的なので,そこは誤解しないようにしてほしい.あしからず.この他プリントに関わる写真沼もあるのだが,話が長くなりそうなのでこの辺にしておこうと思う.
さて本題.
『美術の物語』エルンスト H ゴンブリッチ著,今となっては希少な旧版『美術の歩み』を手に入れました.
写真や構図の勉強になるだろうと,最近人気の漫画『ブルーピリオド』を購入した.この記事を書いている時点では,11巻まで発売されている.東京藝術大学の入試や美術をテーマとした珍しい漫画なので,興味がある人はぜひ手にとってみてほしい.
漫画の中で以下のようなフレーズが出てくるのだが,これがきっかけでゴンブリッチという人のことを知った.
読んだ方がいいよ
フロイトとか
ラカンとか
ゴンブリッチも必読じゃないかな
『ブルーピリオド』9巻より(猫屋敷教授の言葉)
エルンスト H ゴンブリッチは,20世紀最大の美術史家である.1909年ウィーンに生まれ,1939年にはイギリスへと拠点を移す.1946年以降は,研究員,講師,さらに教授として,ロンドン大学のウォーバーグ研究所に勤務し,1959年に同研究所の所長となる.その間,ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート,オックスフォード大学,ケンブリッジ大学の客員教授も歴任する.さらにイギリスアカデミー会員,古代学協会会員,王立建築家協会会員として活躍しながら,諸外国の学術団体の名誉会長となっている.
そんなゴンブリッチの代表作が『The Story of Art 美術の物語』である.Amazonの説明によると,累計800万部の大ベストセラーで世界一売れている美術の本らしい.『美術の物語』は定価が9,350円,Amazonや大型の書店に行けば今でも新品で購入することができる.
現在,河出書房新社が発行している『美術の物語』は,2007年1月にファイドン株式会社より刊行されていた同タイトルの本を,新装版として刊行した書籍のようだ(ここはAmazonの説明に記載されている).しかし,それ以前にもこの本は『美術の歩み』というタイトルで上下巻に別れ,1972年に発行されていたことが解った.
そして偶然,この『美術の歩み』を上下巻ともに手に入れることができた.『美術の物語』をそろそろ買おうかなぁ,と悩んでいたところだったのでタイミングが良かったと感じている.
少なくとも『The Story of Art』というゴンブリッチの著作は,『美術の歩み』>『改訂版 美術の歩み』> 『美術の物語』>『The Story of Art 美術の物語』と日本では4つのバージョンが存在するようだ.どれもAmazonで取り扱いがあるので,興味がある人は調べてみるとよいだろう.
- 『美術の歩み』美術出版,1972年発行
- 『改訂版 美術の歩み』美術出版,1983年発行
- 『美術の物語』ファイドン株式会社,2007年発行
- 『The Story of Art 美術の物語』河出書房新社,2019年
今手元にある『美術の歩み』は,1972年発行のもの(初版かどうかは書かれていないので未定).河出書房新社の『美術の物語』と比較すると,図版にモノクロが多かったりと,やや見劣りする点もあるようだ.内容は素晴らしい本なので,気に入ったら『美術の物語』も購入しようと考えている.
写真と美術の歴史は奥深く難解ではあるが,懐が深く人生が豊かになる世界だと思う.カメラ沼,レンズ沼とは違った趣があり,「写真沼」も一生かけて楽しめる道楽だろう.やはり写真はいい.
〈了〉
SourceNotes
- 『美術の歩み』エルンスト H ゴンブリッチ著,美術出版
- 『The Story of Art 美術の物語』エルンスト H ゴンブリッチ著,河出書房新社
- ブルーピリオド 9巻