『世界を創った100枚の写真』,1989年の #太陽 を読んで写真の歴史を学ぶ.

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『太陽 写真150年記念特大号 | 特集 | 世界を創った100枚の写真』という本が手元にあります.発行されたのは1989年11月なので,30年以上前の本(平凡社から発行).

おそらく今では入手困難ですが,写真を撮る人にむけては非常によい特集だったので,紹介します.「太陽 写真150年記念特大号」で検索すると,古書店などでは一部取り扱いがあるようです.値段も高騰していないので,気になる人は購入を検討くださいませ.

充実したコンテンツ,30年以上前の本だが,まだ多少は流通している.

『世界を創った100枚の写真』,1989年の #太陽 を読んで写真の歴史を学ぶ.

さて,本書の内容はざっくりと以下のようなもの.

19世紀はじめのカメラ オブスクラから,1980年代後半までの芸術写真を網羅した写真/芸術特集の一冊.特集の内容は主に5つ.
100ページ以上でじっくり特集を組まれている『世界を創った100枚の写真』が,この書籍(雑誌)のキラーコンテンツ.

『太陽 写真150年記念特大号』の目次(抜粋)
  • 世界を創った100枚の写真
  • 写真前史
  • 写真メディアの将来
  • 全国写真美術館ガイド
  • レンズの向こうに世界が見える

写真に興味がある人,写真史を学びはじめた人には,とても勉強になる内容なので,ぜひ手に入れて欲しい書籍.平凡社は良い本をつくっている出版社なので,この本を文庫化してくれないかと密かに期待しています.そう言えば,先日も平凡社の新刊『マン・レイと女性たち』を購入したばかり(まだ読んでいる途中ですが,図版も多く,この本も良書の予感がしています).

平凡社の新刊『マン・レイと女性たち』,良い本を出してくれる好きな出版社のひとつ.

まずは,紹介されている100枚の写真をリストにまとめました.

最初に登場するのは,写真といえばこの人,ニセフォール・ニエプスで.額装された『中庭からの眺め View of the courtyard』を見れるだけでも,この本にはお金を払う価値があると思います.

リストは,「写真の撮影された年代,作者名(国),生きた時代,作品タイトル」の順で書籍から引用.

  1. 1826 Joseph Nicephore Niepce ニエプス(仏)1765-1833
    • 『中庭からの眺め View of the courtyard』
  2. 1844 William Henry Fox Talbot タルボット(英)1800-1877
    • 『開いた扉/The Open Door』
  3. 1839頃 Louis Jacques Mande Daguerre ダゲール(仏)1787-1851
    • 『タンプル大通りの眺め/View of the Boulevard du Temple』
  4. 1840 Hippolyte Bayard バヤール(仏)1801-1887
    • 『”溺れた男”を演じる自画像 Self-portrait ”The Drowned Man“』
  5. 1845 David Octavius Hill & Robert Adamson ヒル&アダムソン(英)1802-1870,1821-1848
    • 『船乗り/Sailor』
  6. 1852 Edouard Denis Baldus バルデュス(独>仏)1813-1882頃
    • 『サン=ジャック=ラ・ブーシェリー教会の塔/La tour de leglise Saint-Jacques-la-Boucherie』
  7. 1864 A.Beato ベアト(伊)1820から25-1903頃
    • 『第二回遣欧使節団一行』
  8. 1850 Mxime du Camp デュ キャン(仏)1822-1894
    • 『アブシンベル神殿,ラムセス2世像,エジプト/Adu Simble.acade of the Temple of Ramses Ⅱ,Egypt』
  9. Rager Fenton フェントン(英)1819-1869
    • 『”死の影の谷”バラクラヴァの戦い,クリミア戦争/“The Valley of the Shadow of Death” ,Battle of Balaklava,Crimean War』
  10. 1857 Oscar Gustave Reilander レイランダー(英)1813-1875
    • 『人生二つ道』
  11. 1864 Nadar ナダール(仏)1820-1910
    • 『ジョルジュ・サンド』
  12. 1867 Julia Margaret Cameron キャメロン(英)1815-1879
    • 『ジュリア ジャクソン』
  13. Peter Henry Emerson エマーソン(英)1856-1936
    • 『沼地からの帰途,ノーフォーク・イギリス』
  14. 1887 Eadweard Muybridge マイブリッジ(英>米)1830-1904
    • 『ジャンプする男』
  15. 1903 Frederick Henry Evans F H エヴァンズ(英)1853-1943
    • 『階段の海』
  16. 1857 Gustave Le Gray ル グレイ(仏)1820-1882
    • 『ディエップ海岸の波』
  17. Lewis Carroll ルイス キャロル(英)1832-1898
    • 『ベガー・メイド役のアリス・リデル』
  18. 1861-65 Mathew B.Brady ブレッディ(米)1823-1896
    • 『参謀本部』
  19. 1870頃 William Henry Jackson ジャクソン(米)1843-1942
    • 『ロッキー山脈』
  20. 1871以前or以後 Charles Marvill マルヴィル(仏)1816-1879頃
    • 『パリ市庁舎(パリコミューン以前,パルコミューン以後』
  21. 1873 Timothy H,O’Sullivan オサリヴァン(米)
    • 『キャリオン ド シェリー』
  22. 1876-77 John Thomson トムソン(英)1837-1921
    • 『ロンドン,流浪の民』
  23. 1888頃 Albert Londe ロンド(仏)1858-1917
    • 『エッフェル塔』
  24. 1892 Alfred Stieglitz スティーグリッツ(米)1864-1946
    • 『ターミナル』
  25. 撮影年不詳 E.J.Constant Puyo ピューヨ(仏)1857-1933
    • 『ニンフ』
  26. 1900頃 Robert Demachy ドマシー(仏)1859-1936
    • 『音楽のレッスン』
  27. 1903 Gertrude Kasebier ケーゼビア(米)1852-1934
    • 『祝福』
  28. 1905頃 Alvin Langdon Coburn コーバン1882-1966
    • 『リージェント運河,ロンドン』
  29. 1911-13 E.J.Bellocq ベロック(米)1873-1949
    • 『無題』
  30. 1912 Jacques-Henri Lartigue ラルティーグ(仏)1894-1986
    • 『フランス自動協会グランプリ』
  31. 1916 Paul Strand ストランド(米)1890-1976
    • 『盲目の女』
  32. 1910代 Jean Eugene August Atget アジェ(仏)1857-1927
    • 『オードロベック街の門,ルーアン』
  33. 1916 Lewis Wickes Hine ハイン(米)1874-1940
    • 『掃除人』
  34. 1910-20代 Cecil Beaton ビートン(英)1904-1980
    • 『ナンシーとババ ビートン』
  35. 1925 Imogen Cunningham カニンガム(米)1833-1976
    • 『マグノリアの花』
  36. 1920代後半 Frantisek Drtikol ドルチコル(チェコ)1883-1961
    • 『題名不詳』
  37. 1927 Edward Weston ウェストン(米)1886-1958
    • 『貝』
  38. 1928 Edward J.Steichen スタイケン(ルクセンブルク>英)1879-1973
    • 『グレタ ガルボ』
  39. 1920代 Albert Renger Patzsch レンゲル=パッチュ(独)1897-1966
    • 『オイプス34』
  40. 1928 Laszlo Moholy-Nagy モホリ=ナギ(ハンガリー>独>米)1895-1946
    • 『ジェラシー』
  41. 1929 Andre Kertesz ケルテス(ハンガリー>米)1894-1985
    • 『割れた乾板,パリ』
  42. 1931 Erich Salomon ザロモン(独)1886-1944
    • 『ザロモンがまたやって来た』
  43. 1928 August Sander ザンダー(独)1876-1964
    • 『ボクサー』
  44. 1929 Man Ray マン レイ(米)
    • 『ヌード』
  45. 1936 Margaret Bourke-White バーク=ホワイト(米)1904-1971
    • 『フォートペックダム(「ライフ」創刊号表紙)』
  46. 1930代 Harold E.Edgerton エジャートン(米)1903-
    • 『ミルククラウン』
  47. 1937 Paul Outerbridge Jr. アウターブリッジ ジュニア(米)1896-1958
    • 『爪をつけた女性』
  48. 1932 John Heartfield ハートフィールド(独)1891-1968
    • 『ヒトラー式敬礼の意味』
  49. 1932-33 Brassai ブラッサイ(ハンガリー>仏)1899-1984
    • 『イタリア地区の娼婦』
  50. 1935 Walker Evans エヴァンス(米)1903-1975
    • 『室内風景,ウェストバージニアの炭鉱夫の家にて』
  51. 1936 Dorothea Lange ラング(米)1895-1965
    • 『移住労働者の母子』
  52. 1936 Robert Capa キャパ(ハンガリー>米)
    • 『共和軍兵士の死,スペイン内乱』
  53. 1936 Martin Munkacsi ムンカッチ(ハンガリー>独>米)1898-1963
    • 『ハーパース バザー』
  54. 1938 Manuel Alvarez Bravo アルヴァレス=ブラーヴォ(メキシコ)1902-
    • 『無題』
  55. 1943 Weegee ウィジー(米)1899-1968
    • 『批判者』
  56. 1944 Ansel Adams アダムス(米)1902-1984
    • 『マンザナールから望むウィリアムソン山,カリフォルニア』
  57. 1946 Ellit Erwitt アーウィット(米)1928-
    • 『ニューヨーク市』
  58. 1947 Clarence John Laughlin ラフリン(米)1905-1985
    • 『仮面の侵略』
  59. 1948 Philippe Halsman ハルスマン(米)1906-1979
    • 『ダリ,アトミクス』
  60. 1949 Harry Callahan キャラハン(米)1912-
    • 『エレノア,シカゴ』
  61. 1949 Frederick Sommer ソマー(伊>英)1905-
    • 『アダムの手さげかばん』
  62. 1950 Bill Brandt ブラント(英)
    • 『ヌード,ロンドン』
  63. 年代不詳 Otto Steinert シュタイナート(独)1915-
    • 『無題』
  64. 1950 Erwin Blumenfeld ブルーメンフィルド(独>米)1897-1969
    • 『ヴォーグ,アメリカ版』
  65. 1951 W.Eugene Smith ユージン スミス(米)1918-1978
    • 『スペインの村』
  66. 1953 Ed van der Elsken ヴァン デル エルスケン(オランダ)1925-
    • 『鏡』
  67. 1954 Willam Klein クライン(米)1928-
    • 『四つの顔,感謝祭,ニューヨーク』
  68. 1954 Josef Sudek スデック(チェコ)1896-1976
    • 『窓,プラハ』
  69. 1954 Yousuf Karsh カーシュ(アルメニア>カナダ)1908-
    • 『パブロ カザルス』
  70. 1955 Robert Frank フランク(スイス>米)1924-
    • 『パレード-ホボケン,ニュージャージー』
  71. 1955 Aaron Siskind シスキン(米)1903-
    • 『メキシコ』
  72. 1957 Wynn Bullock バロック(米)1902-1975
    • 『はてしなき航海』
  73. 1961 Henri Cartier=Bresson カルティエ=ブレッソン(仏)1908-
    • 『シフノス,ギリシア』
  74. 1963 Mario Giacomelli ジャコメリ(伊)1925-
    • 『スキャノ』
  75. 1964 Lee Friedlander フリードランダー(米)
    • 『ニューヨーク市』
  76. 1964 Minor White ホワイト(米)1908-1976
    • 『壁の表面,ポルトニーヴィル,ニューヨーク』
  77. 1964-65 Peter Beard ベアード(米)1938-
    • 『無題』
  78. 1965 Kenneth Josephson ジョセフソン(米)1922-
    • 『マシュウ,シカゴ』
  79. 1968 Josef Koudelka クーデルカ(チェコ)1938-
    • 『プラハ』
  80. 1969 Ralph Gibson ギブソン(米)1939-
    • 『無題』
  81. 1965 Lennart Nilsson ニルソン(スウェーデン)1922-
    • 『胎内の驚異』
  82. 1969-70 Duane Michals マルケイズ(米)1932-
    • 『堕天使』
  83. 1969 NASA アメリカ航空宇宙局
    • 『月の地平線越しに見える地球,アポロ11号から』
  84. 1970 Garry Winogrand ウィノグランド(米)1928-1984
    • 『アリ,ボナベナ,記者会見』
  85. 1970 Les Krims クリムス(米)1943-
    • 『二流神秘主義者たちを嘲笑するためにデザインされた幻覚』
  86. 1970 Bruce Davidson デヴィッドソン(米)1933-
    • 『無題』
  87. 1971 Eliot Poter ポーター(米)1901-
    • 『キイロアメリカムシクイ』
  88. 1974 Robert Heinecken ハイネケン(米)1931-
    • 『クリシェ ヴァリー』
  89. 1977 Joel Meyerowitz マイヤウイッツ(米)1938-
    • 『入江/海,プロビンスタウン』
  90. 1978 Joel Sternfeld スタンフェルド(米)1944-
    • 『マクリーン,ヴァージニア』
  91. 1978 Bernard Faucon フォコン(仏)1950-
    • 『宴会』
  92. 1980 Lewis Boltz ボルツ(米)1945-
    • 『無題』
  93. 1980 Robert Mapplethorpe(米)1946-1989
    • 『ダン』
  94. 1981 William Wegman ウェグマン(米)1943-
    • 『エレファント Ⅱ』
  95. 1981 Cindy Sherman シャーマン(米)1954-
    • 『untitled』
  96. 1983 Richard Misrach ミズラック(米)1949
    • 『デザートファイヤー』
  97. 1983 Barbara Kasten カステン(米)1936-
    • 『コンストラクト』
  98. 1984 Joel- Peter Witkin ウィトキン(米)1939-
    • 『ナンの肖像』
  99. 1984 David Hockney ホックニー(英)1937-
    • 『ヌード,6.17,ロンドン』
  100. 1987 Sebastiao Salgado サルガード(ブラジル)1944-
    • 『セラペラダ金坑』
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なぜ,この100枚の写真が世界をつくったとされているのか??

写真史やカメラ史に興味がではじめると,「ニエプス」「タルボット」「ダゲール」といった名前が目にとまるようになります.最初の頃の写真技術やカメラは,1816年ごろにフランスのジョセフ ニセフォール ニエプスよって考案されたというのが通説で,ヘリオグラフィー(英: heliograph)と呼ばれていました.

ニエプスは1826年ごろに,部屋の窓から外を見た景色を定着することに成功します.それが,1枚目に紹介されている写真.『View of the courtyard(中庭からの眺め)』と呼ばれる1826年7月に撮られたこの作品は,世界初の写真とされています.

額装された『中庭からの眺め View of the courtyard』を見れるだけでもこの本には価値があると思う.

イギリスのウィリアム ヘンリー フォックス タルボットは,1839年にロンドン王立協会で,紙の上に写真を撮影する方法を披露した人で,文学者,科学者としても有名でした.彼は1835年頃から,被写体の明暗と逆の明暗のネガ(陰画)を得る方法で写真を撮影しています.

初期のカメラ「ダゲレオタイプ」の発明者であるルイ ジャック マンデ ダゲールも,『タンプル大通りの眺め』という作品を残しています.ダゲールは,1829年からニエプスと写真術の共同研究をはじめていて,1833年にニエプスが亡くなった後もダゲールはひとりで研究を続け,1838年に『ダゲレオタイプ』が完成させました.

カメラ,写真を好きになっていくということ.

とりあえず最初の3枚が,「なぜ世界を創った写真に選ばれているのか??」を簡単に解説しましたが,ここで紹介されている100枚の写真の歴史的背景を理解しておくと,写真やカメラをより深く理解し,仕事や趣味として写真を楽しめるようになると思います.

カメラのメカニックな側面に興味がある人は,前述したニエプスからはじまる「写真史」の部分から学んでみるとよいし,作品としての写真に興味があるなら,ここで紹介されている100枚の作品を残した写真家の中から,好きな作家を見つけて歴史を辿のも良いと思う.

僕の場合は,「アジェ」「フランク」「ブレッソン」などが好きなので,それらの作家の写真集を少しづつ買い集めいている.敬愛する写真家の作品集に囲まれるのは快適で,それらの写真がいつでも見れるというのは,実に幸せなことだと感じています.

敬愛する写真家の作品集に囲まれるのは快適で,それらの写真がいつでも見れるというのは,実に幸せなこと.

こうやって,「カメラの機械的なところから写真を好きになる」のもいいし,「写真の持つ芸術的な側面からカメラを好きになる」ことも,どちらも健康的な興味の移ろいだと考えています.

カメラを持ち日々写真を撮っていると,世界が少しづつ綺麗に視えてくるし,日常の瞬間が掛け替えのないものに思えてくる.

〈了〉

SourceNotes

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