その表面は灰色と白に彩られ,その容積はあきらかに半立方米を超えていない.側面に,ソフトホワイトスコッティ(R)フリーフォールドの文字がある.それは丁度四百枚の柔らかい白い紙を蔵していて,それらの紙の用途は購入者に一任されている.今,私はその最初の一枚を引き出して鼻をかんだ.
それは或る空間を占有している.だから当然時間という存在様式にも従っている.それは美しいのか醜いのか,私には断言できぬ.それが何であるか,私はすでに読者に語っただろうか?
引用: 『定義』谷川俊太郎著,「非常に困難な物(12p)」より
この文章は,谷川俊太郎さんの詩集『定義』に収録されている2つ目の作品.ここ(この文章)まで行き着いた経緯も1冊の本で,梅田卓夫さん著書『文章表現 四〇〇字からのレッスン』の中で引用されていたことがキッカケです.
そこでふと頭によぎったこと.
この文章に,自分の撮った写真を添えて.ただそれだけで,一つのコンテンツとしてブログに書いておくこと.これは「コンテンツをつくった」と考えてよいのか?ということ.
大辞林では,コンテンツを以下のように定義しています.(大辞林Appより引用)
- (箱などの)中身.
- 情報の内容,放送やネットワークで提供される動画・音声・テキストなどの情報の内容をいう.
- 書籍の目次.
これに当てはめると,ウェブとよばれるネットワークで提供しているテキストと画像の情報なので,「コンテンツをつくった」ということになります.
もしこの記事を読んだ人が,「ティッシュボックスをこのように表現するのか,面白いな」と感じたり,「半立方米ってなんだろう,ググってみよう」と疑問を抱いて知識が増えたとしたら,それはコンテンツとしてのひとつの役割を果たしたことになると思いう.(半立方米=米はメートルの漢字表記,なので0.5立法メートルのこと)
または,この文章から谷川俊太郎さんや著書のことを知り,散文や詩集といったモノに興味関心を持つ人がいらっしゃるかもしれません.(多分この記事は,グーグル先生には拾っていただけそうにはありませんが)
よい文章とは,
引用: 文章表現 四〇〇字からのレッスン(15pより)
1)自分にしか書けないことを
2)だれにでもわかるように書く
ということを実現している文章.
最近,「自分らしい文章,自分らしいコンテンツ」ということを時折考えているのですが,このブログ記事は『文章表現 四〇〇字からのレッスン』を読んでいて前述の箇所が気になり,たまたま手元に谷川俊太郎さんの詩集『定義』があったので索引することができた.そんな偶然が重なった,自分にしか書けない文章だったのかもしれません.
〈了〉
SourceNotes
- 文章表現 四〇〇字からのレッスン ちくま学芸文庫
- 定義
- スコッティ ボックスティッシュ