「弁証法」の意味が,やっと自分の言葉で説明できるようになってきた.#写真についての覚書

ヴァルター ベンヤミンは,ドイツの文芸批評家,哲学者である.翻訳の仕事もしていたらしく,Wikipediaには「翻訳家」「社会批評家」といった肩書でも紹介されている.

写真の歴史を学んでいると『複製技術時代の芸術』『パサージュ論』などのベンヤミンの著作と必ず出会うことになる.『複製技術時代の芸術』の一項である「写真小史」は,ちくま学芸文庫から『図説 写真小史』として文庫化もされている.図説も多く読みやすい,さらには今でも新品で流通しているので,ベンヤミンの著作に触れたい人は,まずこの書籍から手にとってみるとよいだろう.

最近『複製技術時代の芸術』を読み返しているのだが,帯の裏面に書いてある文章がふと目に止まった.ちょっと長めではあるが,そのまま引いておこう.

複製技術の時代は,芸術の根拠を儀式から政治に変え,厖大な大衆を自由に芸術へよびいれることによって,参加の概念を変えてしまった.芸術の私有の観念を排しさった複製技術の意味をまっすぐにみすえ,破壊的要素をになう弁証法の推進力を欠いたすべての文化史的芸術を真向から否定した先駆的,独創的な映像芸術論.

『複製技術時代の芸術』は140ページ程度の薄い本なのだが,哲学の基礎知識や写真の歴史,また第二次世界大戦前後の近代史の理解が無いと,読解は困難な本だと思う.この帯の裏面でも「弁証法」という言葉が登場するので,弁証法の意味を知らないと,帯の内容すら読み解くことができない.

最近やっと弁証法の意味は「異なる見解を対話させることで,より高次の見解に到達するという思考法のこと」と自分の言葉で説明できるようになってきた.哲学用語を感覚的に理解するのは,なかなか時間がかかると感じている.哲学に興味が少しでもあれば,若いうちから勉強をはじめておくほうがよいだろう.

哲学の入門書としては,ここ数年『世界十五大哲学(PHP文庫)』を愛用している.文庫サイズで携帯もしやすく,平坦な言葉で解説されているので内容も比較的すらすらと頭に入ってくる.「弁証法」の意味も,ほぼこの本で覚えた.

Dialektik(「弁証法」と訳される)という言葉は,「対話する」という意味のdialegoというギリシャ語に由来する.「対話」には,それぞれ一面的な見解をもつ二人が,対話することを通じて,たがいに相手の見解の一面性を批判しあうことにより,一面性を克服した,より高い,統一的な見解に到達するという構造がみいだされる.このことから,低い見解を否定して,より高い見解へと発展する,という構造がみいだされる.このことから,低い見解を否定してより高い見解へと発展する思考の歩みが,弁証法とよばれるようになった.さらに,もっと一般的に,自然と社会およびそれらの反映である人間への認識の,一般的な発展法則を研究する学問が弁証法と呼ばれる.

2000年〜2020年にかけて,インターネット,ブロックチェーンなどの世界を変える技術が次々と登場している.ベンヤミンが『複製技術時代の芸術』を著したころは(1970年),写真術が登場してちょうど150年が経ったくらいで,写真というテクノロジーの発展が一旦落ち着いた時期だ.

このころに書かれた本を2020年に読むことで,ひとつの大きなテクノロジーが生まれ,発展し,そして大衆にどのように定着していくのかという大きな歴史の流れを学ぶことができる.このようにして写真の歴史を振り返ることは,これから100年かけてインターネットやブロックチェーン技術がどう発展し,どういった普及の過程を辿るのか,いくつもヒントが隠されているように感じている.

〈了〉

SourceNotes

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