【On the Street】熊本の街を読むストリートスナップ,看板と自転車と少しのユーモア|Sep.21 2024 / part1

撮影:2024年9月21日,天気:晴れ,場所:熊本市中央区
カメラ:Nikon Df,レンズ:AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF

日常的にカメラをぶら下げてスナップ写真を撮っているので,それらの取り留めのない写真を載せています(On the Streetは,ソールライターの写真集の見出しから拝借).

はじめに:スナップショットの時代から,熊本の街角へ

一九二〇年代後半から三〇年代にかけて,ライカなどの高性能な小型カメラが登場するとスナップショットが流行する.屋内外の様々な場所と機会にカメラが持ち込まれ,瞬間のイメージを記録するようになった.

引用:『日本写真史(上)』鳥原学著(中公文庫)

鳥原学さんの本には,1920年代後半から30年代にかけて,ライカのような小型カメラの登場とともにスナップショットが広まり,屋内外のさまざまな場所にカメラが持ち込まれるようになった──,という趣旨の一節がある

100年前,人々は「瞬間のイメージを記録する」という行為を発見し,その自由さに夢中になった.僕が街を歩きながら撮っているストリートスナップも,その延長線上にあるのだと思うと,なんとなく心が落ち着いてくる.

この日も,熊本市内をカメラをぶら下げて歩きながら,目に入ったモノ,気にとまったモノを次々とデジタルデータに変換していった.
後日データを見返していると,文字や看板,自転車や貼り紙といった,街の「端っこ」にあるものばかりがスナップされていることに気づく.
この記事では,そうしたモチーフを手がかりに,熊本の街を“読む”ストリートスナップをまとめてみたい.

「アオカビ」と書かれた,白い壁

最初に足を止めたのは,真っ白な壁──,そこには黒い文字でぽつんと「アオカビ」と書かれている.発酵料理の専門店の看板らしきもの.
壁はきれいに塗り直されていて,もちろんカビの痕跡は見当たらない.日当たりのよい通りではないので,「かつてひどいカビに悩まされていて,誰かのユーモアだったりしたら面白いな」──と,答えのでないことを考えていた.

AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/500
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/500
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/125

赤いトラックと黄色い壁:色で覚える街の午前

少し歩くと,黄色い外壁の前に,赤(コカコーラ)の配送トラックが停まっていた.
赤と黄色という強い色同士がコントラストを生み出している.荷台は商品の段ボールでぎっしりと埋まっている.
世界的なブランドのロゴが,地方都市のいつもの朝の風景の中で,何事もない顔をして働いている.

街を歩きながらストリートスナップをしていると,こうした色の組み合わせが何度も現れる.
観光名所や特別な場所ではなく,こうした日常の色こそが,あとで写真を見返したときに「街のスナップらしさ」として蘇ってくる.
一枚の写真が記録しているのは,場所だけでなく,その日の空気感や,午前中の少し眠そうなテンポまでも含んでいるような気がする.

AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/500
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/500
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/250

旗が揺れる通り,重なる看板のレイヤー

別の通りに出ると,銀行や証券会社,飲食店の看板が並ぶ一角に.その前には,キャンペーンのものと思われるカラフルなのぼりが何本も立っている.
手前の旗は風に揺れ.ピントの外で大きくブレている.奥には「南日本銀行」などの看板が整然と並ぶ.
ここでも,風景を形づくっているのは建物そのものではなく,ロゴや文字のレイヤーだ.

あふれる情報をすべて画面に詰め込むと雑然としてしまうが,ピントや構図をずらし、どこまで「見せるか」を決める──,ストリートスナップでは、このような「情報過多」をどう切り取るかが,いつも小さな課題になる.

AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/1000
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/125

猫のイラスト(壁画)と,すり切れた暖簾

路地を曲がると,猫がジョウロで水をあげているイラストに出会った.
これは壁画と言っていいのだろうか──,「Please Don’t Forget to Water Your Flower!」という英語のメッセージと,周囲に並べられた鉢植え.
軽いユーモアとささやかな優しさが混ざり合ったようなその一角,なんとなくここだけが周りと比て空気が柔らいでいた.

さらに歩くと,長年使われてきた居酒屋の暖簾が目に入る.文字は擦り切れ,布地の端は破れかけている.下には,比較的新しいビールの看板と,手入れをされた観葉植物がある.
ここにもまた,時間の経過が丁寧に刻み込まれた文字と街の表情があった.

猫のイラストも,古びた暖簾も,どちらも「誰かの生活の延長線上」にあるものだろう──,ストリートスナップを撮っていると,その向こうにある営みや人々の笑い声が見えるでことがある.

AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/1000
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/250
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/250

自転車が語る街のリズム

街では,自転車もよく目に入るモチーフだ.
柵の隙間から覗き込むように見えた黄色い自転車は,木の塀と黄色い花の色と相まって,どこか絵本の1ページのような印象をつくっていた.
手前のフェンスがぼんやりと写り込んでいるおかげで、画面全体に覗き見ているような距離感が生まれる.

一方,アーケード近くではロードバイクが道路脇に停められている.
その奥にはカラフルなゲートがぼんやりと写り,中心街の賑やかさとロードバイクのシャープなシルエットがよいコントラストになっていた.

「自転車は移動の手段であると同時に,街との距離感を象徴する存在なんじゃないか──」,ふとそんな思いが頭をよぎる.
歩くよりも遠くへ行けるけれど,車よりもずっと街に近い.自転車は街のリズムを映すメトロノームのようにも感じられる.

AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/250
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/500
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/500

歴史と注意書き──,ラフカディオ ハーンの看板

電柱には,ラフカディオ ハーン(小泉八雲)の旧居を案内するプレートが貼られていた.
びっしりと書き込まれた説明文を,立ち止まって最後まで読む人は多くないだろう.
けれども,こうした小さなサインが,目に見えにくい街の歴史と現在とを静かにつないでいる.

別の場所では,「F」とかかれたお店の看板.このお店(パン屋さん)も,今では閉店してしまった.「(亡くなった母がパンが好きだったので)何度かここで買い物したな」と過去を思い返しながら,その景色を切り取る.

AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/1000
AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF|ISO100,f4.0,1/125

おわりに:文字を追いかけるスナップショット

1920年代に始まったスナップショットの文化は,小さなカメラを片手に街を歩き,その場の空気や人々の暮らしを瞬間的にとらえることから始まった.

生まれ育った街を歩きながら,看板や貼り紙,イラストや自転車といった「文字のまわりにあるもの」を追いかけていると,自らの行為がその歴史のごく細い一筋につながっているような気がしてくる.

観光名所を効率よく回る撮り方とは違い,ふと目に留まった言葉や文字をきっかけに歩くと,街との距離が少しだけ近くなるような錯覚をおぼえる.
フォントの選び方,手書きの筆跡,塗り直された痕跡──,そうした細部を眺めることで,街が持つユーモアや優しさ,そして長い時間の蓄積が,じわじわっと見えてくる.

街の言葉を読み,色と形を味わいながら歩いていると,その積み重ねがいつか自分だけの街の記憶として残っていくのだと思う.

了.

関連記事と紹介した本

同じ日のスナップがありますので,もしよろしければ御覧ください.